動悸はよくある症状の一つですが、様々な原因があります。
動悸は一般的に、心臓が普段よりも速く、または不規則に鼓動していると感じる状態を指します。病的なものでない場合や症状が軽い場合もあれば、生活に大きな影響を与えたり、場合によっては生命を脅かす病気の前兆となることもあるため、正しい知識と対処が重要です。ここでは、動悸の原因、診断方法、治療法、さらには予防について、最新のエビデンスに基づいた内容を分かりやすくご紹介します。
- 動悸の原因と背景
動悸の原因はさまざまですが、大きく以下の2つに分類できます。
- 心臓に直接起因する要因
- 不整脈
心房細動や心室性不整脈、頻拍性の心調律の乱れなどが代表例です。特に高齢者に多い心房細動は、脳梗塞などの重大な合併症を引き起こすリスクがあるため、早期の発見と治療が必要となります(図1、2)。徐脈頻脈症候群といって心房細動の後に洞停止を伴う疾患があり、その場合には動悸症状の後にめまいや意識消失を伴うケースがあります。
症例)60代男性
健診の心電図で心房細動を指摘されました。この時朝から動悸の症状があったようですが、時々ある症状なので気に留めていなかったようです。この方は血栓症のリスクが高い患者様であり、抗凝固療法を導入の上、カテーテル治療目的に総合病院へ紹介の運びとなりました。
- 心筋症
虚血性心疾患や心筋炎のように、心臓自体の機能が低下する疾患も動悸を誘発する原因となります。
症例)40台男性
意識消失の症状があり受診されました。ホルター心電図にて非持続性の心室頻拍、得心エコー図検査で心機能の低下を認め、総合病院へ紹介としました。その後植え込み型の除細動器の植え込みを受けています。
- 心臓以外の要因
- 精神的要因
不安障害やパニック障害など、精神的ストレスが原因で自律神経が乱れ、動悸が現れることがあります。季節の変わり目、何らかのライフイベントを契機に発生することもあり、「いつから」症状があるかが重要な判断材料になることがあります。この場合、心理的ケアが治療の重要な部分となります。精密検査を行い、心疾患が否定されることで安心されて、症状の緩解が見られるケースも経験します。
- 甲状腺機能亢進症
甲状腺ホルモンの過剰分泌により、交感神経の働きが活発になり、動悸が引き起こされることがあります。女性の動悸症状を認めた際には、念頭に置かなければならない疾患です。安静時の頻脈、手の震えなどを伴う場合はより積極的に疑う必要があります。
症例)40代女性
動悸症状を訴え来院されました。安静時も脈拍数110回/分程度であり、甲状腺機能を測定したところ、甲状腺機能の亢進を認めました。自己抗体も出現しており、抗甲状腺薬、徐拍化のためのβ遮断薬の投与を行い、甲状腺機能の安定化の後にβ遮断薬の中止、抗甲状腺薬の減量を行い、外来通院されています。
- 薬の副作用
例えば、一部の風邪薬や交感神経を刺激する薬剤が動悸の原因となることもあるので、服用中の薬についても注意が必要です。β刺激薬と言われる成分を含む喘息の吸入薬を使用されている方で動悸症状が出現することがあります。
- 動悸に対する診断方法とアプローチ
動悸の診断は問診を丁寧に行うことが非常に重要です。多くの場合、症状の出現の仕方・タイミングを伺うことにより、推測が可能です。一般的な診断の流れは以下になります。
① 詳細な問診と既往歴の確認
- 症状のタイミング
動悸が強く感じられるのが運動中なのか、安静時なのか、もしくは夜間なのかなど、状況を詳しく聞き取ります。
- 既往症のチェック
高血圧、糖尿病、過去の心疾患など、患者さんのこれまでの病歴をまずは把握します。
- 生活習慣や精神状態の把握
カフェイン摂取量、アルコールの習慣、さらにはストレスの状況も重要な評価項目です。お酒を飲んだ日にだけ症状を感じる方も中にはいらっしゃいます。
② 身体検査
- 心臓・血管の評価
触診、視診、聴診を通じて、心雑音や不整脈の有無を確認します。
③ 画像や血液学的検査
- 心電図(ECG)
不整脈や心筋虚血の所見を捉えるために欠かせない検査です。自宅での心電図の確認、症状出現時の心電図を確認するために、24時間のホルター心電図を行うこともあります。
- 血液検査
血清カリウム値や甲状腺機能の評価を行います。場合によっては副腎皮質ホルモンのチェックなども行います。
- 心臓超音波検査
心臓の機能、弁膜症の有無などをチェックします。心臓超音波検査で明らかな異常が無ければ致命的な疾患である可能性は少し下がるため、必須の検査と言えます。
問診を行い、まずは心電図や心臓超音波検査で器質的な異常の除外、緊急性の有無の判断を行います。その後採血で甲状腺機能や電解質などを評価し、ホルター心電図などで実際の不整脈を特定するというものが当院での検査の主な流れになります。
- 治療の選択肢とそのエビデンス
動悸の治療は、原因に合わせて大きく異なります。ではそれぞれについて見ていきましょう。
① 不整脈に対する治療
- 薬物療法
β遮断薬やカルシウム拮抗薬が、心房細動や発作性上室性頻拍など、頻脈性の不整脈の頻度や重症度をコントロールする第一選択薬として用いられます。心房細動の場合には洞調律を維持するために、サンリズムやシベノールといった抗不整脈の内服を選択します。発作の回数や程度によって治療の選択肢は変わっていきます。
- カテーテルアブレーション
発作性上室性頻拍など特定の不整脈に対しては、カテーテルアブレーションが非常に効果的で、再発率も低いと報告されています。若年者に見られることの多い、WPW症候群もカテーテルアブレーションの良い適応と言われています。
- 抗凝固療法
心房細動の患者では、血栓塞栓症のリスクを減らすために、併せて抗凝固療法が導入されます。転倒が多い、これまでに出血の既往があるなど、抗凝固療法の導入により出血のリスクが高すぎると判断される場合には、左心耳閉鎖術という治療を選択するケースもあります。
② 精神的ストレスへの対応
- 心理療法
認知行動療法(CBT)など、精神面からのアプローチが動悸の改善に有用な場合があります。また、必要に応じて抗不安薬などの薬物療法も考慮されます。
- 生活習慣の見直し
睡眠の質を向上させること、定期的な運動、カフェインやアルコールの摂取制限を実践することで、症状の軽減が期待できる場合もあります。
③ 内科的疾患(甲状腺機能亢進症等)への対策
- 内分泌治療
甲状腺機能亢進症が原因であれば、抗甲状腺薬などを実施し、甲状腺機能の正常化を図ることで、動悸の症状も改善が期待されます。
- 不整脈の早期発見と予防
動悸の予防は、原因疾患の適切な管理と、日々の生活習慣の改善も重要です。
以下のポイントに気を付けることで、症状の発現を効果的に抑えることができます。
- 定期健診の実施
定期的な健康診断、特に心電図検査は、不整脈や心筋虚血の早期発見に有効です。家族歴がある方や高齢者は、年に一度の検査を受けることをお勧めします。
- 生活習慣の改善
有酸素運動を取り入れることで心肺機能を維持し、また塩分・脂質の摂取を控えるバランスの良い食生活が動脈硬化の進行を防ぎます。心房細動は飲酒や喫煙が発作の誘因となる方もいらっしゃるため、禁酒・禁煙が不整脈の予防に重要となってきます。
- 薬物治療の適正管理
既に不整脈の指摘、心疾患をお持ちの場合には医師の指示に従って定期的な投薬管理を行うことが、動悸を予防する上で重要です。調子がいい時期が続いていても、自己判断による薬の中止や増量は避けてください。
- 最後に
動悸は原因が多種多様であり、病気であるもの・そうでないもの、介入が必要であるもの・ないものと幅が広い症状です。正確な診断には、専門医によるしっかりとした問診と各種検査が必要となってきます。もし日常生活で動悸が頻繁に起こり、生活の質に影響を及ぼしている際には、早めに循環器内科を受診することをおすすめします。
この記事が、動悸に対する不安を解消し、適切な医療機関への受診の一助となれば幸いです。お近くの循環器内科クリニックにも、ぜひお気軽にご相談ください。
監修: Myクリニック本多内科医院 院長 本多洋介
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